【 第16話 】 【 混浴の女たち  】

温泉浴場の引き戸を開け、中を伺い。そして、慌てて締めた。

岩手県花巻市郊外の南花巻温泉郷。志度平温泉旅館での出来事。 最初は、同じ南花巻温泉郷にある、大沢温泉から紅葉を望むの図というのを決め込んで行ったのだが、これが満員。

だいたい、並んでまで、何かしようとか、食おうとかなんて考えは、もうとうない。戦後の品不足、食糧難の時代じゃあるまいし。(当然、リアルタイムで知ってるわけじゃないけど。)

というわけで、急遽、予定変更。 それじゃぁ、というんで、志度平ホテルの裏側に、ひなびた温泉旅館があるのを思い出した。

入湯料を払い、中に入ると、千人風呂の名前が見えた。 千人風呂、いいねぇ。やっぱり風呂は大きくなきゃ。

大きいのはいいが旅館のつくりは、うなぎの寝床状態。 階段を上ったり下ったり、途中で不安になり、女性従業員に風呂の場所を聞くことになった。そのあと千人風呂へと歩いていると、右側に女湯のプレートが見えた。ここは、どれぐらいの広さなのか。

千人風呂に着き、まずは、お風呂拝見。と相成ったのだが・・・・「うっそー!」一昔前の女子中高生の感嘆詞ではないが、中を覗いて、慌てて引き戸を閉めて、叫びそうになった。

入り口の真正面の洗い場に、ふたつの裸の背中。年の頃なら・・・・ 考えなくても、年配とおぼしき女性の背中。

「まさか、女風呂?」

いや、そんなわけはない。ナベじゃ、あるまいし(←第8話 温泉でドッキリ:参照 そんなヘマはしないはず。確かに途中で女風呂があるのを確認している。

と思っていると、ガラリと引き戸が開き、タオルで前を隠した年配のオヤジが出てきた。それを見て、ひとまずは安心したのだが、ぼくは恐る恐る聞いてみることにした。

「ここ男湯ですよね?」

ぼくの質問に、ジイサンは、 「混浴」 と、拍子抜けするほど、あっさりと答えた。

ああ、そういうことね。だったら分かるわ。混浴初体験としては、まあ、ありがちなシチュエーション。ばあちゃん達と入る風呂。よく聞く話ではある。

といって、ここまで来て、入らないという手もない。服を脱ぎ、いざ千人風呂へ。^ とても、千人入れるとは思わないが、作った年代的なものを考えると、かなりの広い浴場といえる。入り口から向かって左側奥に、露天風呂の入り口が見えた。 バアチャンたちの後ろを通り、かかり湯をかぶると露天風呂へと向かった。 そのとき、後方、入り口の方から、小さな子供の歓声が聞こえた。

露天風呂への、ドアを開けると川のせせらぎが聞こえる。

露天風呂は ̄|の型になっていて、左側には大きな岩がある。 ポジションとしては、やはり左に曲がった、奥が一番良さそうだ。

ゆっくりと手足を伸ばして、川を眺め、川向こうの紅葉しかけた山を見ながら風呂に入る。最高でしょ。

ザプザブとお湯をかき分け、左に向きを変えた。あら、まあ、絶好のポジションには先客がいた。それも、男女のアベック?カップル?つがい?

2人とも20歳前後か・・。若いんです。ピチピチです。 いや、別にいいんですよ。ふたりで風呂に入っていようと抱き合っていようと。ただ、こっちの身の置き所が。

別に、2人の隣、女の子側でも、いいわけだが、やっぱりそれは、ねぇ・・。

ということで、手前で、2人が出て行くのを待つことにした。 ところが、これが居心地が悪い。風呂の形からして、どうにもこうにも、うまくピタッと納まる場所がない。 左手の岩を眺めているだけだと、つまんないし、やはり、見るとなると川の方なわけだから、岩に手を置いてというのもねぇ。温泉につかっているニホンザルのようだし。

待つこと数分、彼らが、ぼくの前を通り、出口へと向かう。 見るとはなしに見てしまいますわな。 女の子のバスタオルを巻いた下から伸びたスラリとした足。生足ですわ、生足。

まあ、そのぅ、見えそうで見えないという、ごくごく日本的な色気・・・・

それはともかくとして・・・ 2人が出た後は、当然のごとく、狙っていたポジションをゲット。

紅葉の時期としては、ちょいと早いのだが、なかなか風情。 せせらぎを聞きながら、目をつむると、まさに癒しの世界。

そうしているうちに、オッサンが入ってきたので、いったん中に入って髪を洗うことに。子供たちが、歓声を上げ走りまわっている。ひとりは男の子で3、4歳といったところか。もう1人は女の子で、やっと歩き始めたといった年頃だ。

さっきの若いふたりは、並んで内湯につかっていた。 (ヒュー、ヒュー、仲のいいことで、て、そりゃそうだよな。

先客のばあちゃん達は、あいも変わらず、同じところで、だべっている。 まさに、これぞ、日本の混浴温泉の図だ。

入れ替わりに入ったオッサンが出てきたので、もう一度、露天風呂へ。 ゆっくりと、貸しきり状態の露天風呂を楽しむ。

入り口のところに「打たせ湯」のようなものがあったことを思い出し、露天風呂から出てきたら、右手にタオルを持ち堂々と歩く、筋肉質の裸の背中が見えた。

あまりにも、堂々としているんで、しげしげと、その後姿に見入ってしまった。

だって、女だぜ。それも、30前後?の (このときには年まで分からなかったが、風呂から上がったのを見て、それぐらいだろうと推測した。ぼくの女を見る眼なんて、あてにはならんが。)

でも、普通やるか、女が片手にタオルを持ったまま、風呂場の中を闊歩する。なんてこと。

いやー、さすがに、このときばかりは思ったね。 すこしは、恥じらいを見せなさい。と。

男だったら、そうは珍しいことではないが。女となると・・・。 (とは言っても女風呂に入ったことがないんで、実情までは分からないのだが)

こっちとしては、追い越すのも変だし、後を付いていくこととなった。 彼女は、さっきから大騒ぎしている子供たちの母親らしかった。 内湯の風呂に、女の子を抱いて入っている男が見えた。父親なのだろう。

なんとなく興がそがれた形となり、打たせ湯の前を通り過ぎ、脱衣場まで出てしまっていた。打たせ湯が、稼動していたのか、どうかも怪しかったしね。

そのあと、風呂を出て、休憩所?のベンチに腰をかけ、一服していると、くだんの親子が出てきた。親ふたり、子供がふたりに・・・ ジジ、ババのふたり。つまり、三世代ということ。

なんで、分かったのかって、聞いたからです。、家族でよく、温泉に入りに来るということだった。

でも、どうしても聞けなかったことがある。
果たして、このジジ、ババ。どちらの両親か?
嫁さんの親だとすると、ダンナは・・・・。
嫁だとすると・・・舅と姑と・・・・あぁーぁ、こんがらがってしまった。

でも、どう考えます。 自分が奥さんの両親と同じ風呂に入る。 奥さんが、自分の両親と一緒の風呂に入る。ウーム、どっちもなぁ・・・・

とりあえずは、おおらかな家族ってことにしておきましょうか。

こんな、世にも奇妙なことが起こった、 志度平温泉旅館は3月31日をもって閉館の運びとなりました。ざんね〜ん。


スポンサードリンク