【 第13話 】 【 教師のお言葉  】

小学校のころは、視力が1.5〜2.0。

ところが、中学に上がったくらいから、視力がドンドン落ちていって中学2年の時には、0.2まで下がっていました。当然、メガネのお世話になる、ということになる。ところが、どうしたことか、メガネでは矯正出来ない。

メガネの度数を上げると、まるで水の中にいるようで、ゆらめきが大きく、まともに歩くこともできない。かといって、度数を下げると、裸眼とたいして変わらない。と非常に、やっかいな目ん玉をもっていたわけです。

そんなわけで、遠くの文字を見るときは、多少不便であったが、普段はメガネをかけることは、ほとんど、ありませんでした。ただ、メガネを掛けないと、どうしても目を細めてしまうのが癖のようになっていました。

なぜ、矯正出来なかったのかは、後に判明します。強度の乱視で、なおかつ右と左のバランスが極端に違うということからでした。

これは、ある眼科医から聞いた話ですが、
「子供の頃には、眼球の周りの筋肉に柔軟性があり、なおかつ筋力そのものも強いため、 強制的に、矯正する力ある。それが、年齢を重ねるうちに、本来のというか、生まれ持った乱視の症状があらわれてくる」という、ことでした。

ちなみに、乱視は遺伝的な要素が、非常に強い 病気? 症状? だそうです。

月日は経ち、高校3年の始業式の日。
当時、ぼくの通っていた高校は、建て替え工事のため、生徒と教師が同じ玄関を使っていた。 その日の朝、玄関で内履きに履き替え紐を結んでいると、側を通る人間がいる。

顔を上げると、そこには、きょうから担任となる日本語教師・・・・じゃなく、古典の「エヌ」がいた。目のくらむような美人教師で、といきたいところだが、いつも苦虫を噛みつぶしたような、しぶ〜い顔をしたオヤジである。

いつもどおり、「オス」と一声かけて、紐を結ぶ作業に戻った。

当時は、相手が男であれ女であれ、先輩であろうと、教師であろうと学校の内外問わず「オス」という挨拶をすることになっていた。学校全体が、ほとんど体育会系のノリ。

入学当時、1つ上の先輩たちには厳格な人たちが多く、挨拶を忘れたり、声が小さかったりすると、あごを、しゃくって、

「ちょっと、こいや」 なんて、やさしい、お言葉をかけられ、人目のつかない所で、数人に取り囲まれ、 厳しい助言を戴いたりして・・・・。

そんなわけで、1年生のときは、いつも下ばかり見て歩いていた。それは、学年ごとに靴紐の色が決まっていたこととも関係がある。当然、自分の紐の色と違うということは上級生を意味している。

中には、白い紐のバスケットシューズを履いている奴がいて、そいつに「オス」と頭を下げたら同級生だった。なんてことも珍しいことではなかった。

色のついた、くつ紐を使わないのは応援団員だった。 応援団は、幅を利かせていたし、学校側も大目にみているところもあった。そして、「エヌ」は、応援団の顧問でもあった。

紐を結び終えて、玄関からつづく廊下へ出ると「エヌ」が立っていた。
「なんで、こんな所に、立っているんだろう・・・」と首を傾げつつ、前を通り過ぎようとしたとき、

突然、その言葉は発せられた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「エヌ」が待っていたのは、ぼくだったのだ。正直、その言葉を聞いたときには、あまりのことに木偶の棒のごとく、ただ、突っ立っているしかなかった。

玄関先で、教師と向かい合わせに立っている、ぼくを、登校してきた生徒たちが 大勢、遠巻きに眺めながら通り過ぎていく。

言葉もそうであったが、このことの方が、ぼくにとっては、大きなダメージであった。

始業の時間も迫っていたため、「エヌ」は、なにか、ひとこと、ふたこと、発すると去っていった。助かったというより、なんと理不尽な、という思いの方が強かった。

それから何分か後「エヌ」が、教壇に立ち、新学期第一日目の一時間目が、何事もなかったかのように始まった。ぼくは「エヌ」が担任だというのは、前から知っていた。

しか〜し、彼は、ぼくの受け持ちとは、知らなかったようだ。

そして・・・・・・・・・・・・・・・・
何事もなかったかのように、その日は、終わった。その後の1年間も、何事もなかったように過ぎていった。

先生、あれから、長い月日が経ちました。女子高の校長を最後に、教職を退かれたと聞きました。

ぼくは、後から知ったのですが、奥さまは、もと教え子だったそうですね。奥さまが卒業してからの結婚、とお聞きしましたが、奥さまが高校生の頃から、お付き合いだったんでしょうか?どちらからの、アップローチだったんですか?

あっ、その話では、ありませんでした。
覚えてらっしゃるでしょうか?あのときの言葉。


「なんだ、てめぇ、ガンつけやがって!」

まさか、そんな言葉が、教職にある者の口から出るとは、・・・・・・

あの日、家で、何か、朝から面白くないことでもあったのでしょうか?奥さまと、夫婦喧嘩をなされたとか・・・・、その前の晩に、いろいろあったとか、なかったとか・・・


先生、もう一度、お聞きします。
今でも、覚えてらっしゃいますか?あの、お言葉。

「なんだ、てめぇ、ガンつけやがって!」

ぼくは・・・・・しっかりと、
お・・ぼ・・え・・て・・い・・ま・・す・・・。

ぼくは視力が悪く、あなたを見上げたときに、目を細めただけ、だったんですけどね。


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