【 第 6 話 】 【 真夜中の恐怖  】

翌日から、俺はコニシより早く寝ることに決めた。 催眠術でも、こうは行かないだろうというぐらい寝つきの良さには自信がある。

頭が枕についたとたんに「ガー」てなもん。1度寝たら、朝までぐっすり。 特別なこと(火事とか地震とか・・隣の布団でHとか)でもなければ、目を覚ますことはない。

ところが2日目、宿に帰ると、宿のおかみから

「申し訳ないんだけど、金曜日1日だけ部屋替え、お願いします」 と言われた。土曜日には家に帰るから一晩だけということになる。 こういうことは、珍しいことではない。

俺たちが一番大きな部屋に入っている。金曜のお客は5人らしい。ここは長期滞在が多いため、1人部屋がいくつかある。そこで3人で2部屋を使って欲しいというのだ。となるとゴトーの1部屋は確定。あとはコニシと俺が、もう1部屋ということになる。

さて、問題の金曜日の夜。コニシに、何時頃に寝るかと聞くと、「家にいればテレビを見たりしてるから遅い」という。だったらというので、いままで溜まっていた書類を書き上げ、10時頃に布団に入った。とにかく、早く寝たが勝ちだ。

別にテレビが点いていようと、そんなもので寝つきが悪くなるなどというナイーブさは、もともと持ち合わせていない。ところが、コニシは気を使ったのかすぐにテレビを消した。

俺は、いつものごとく「あっ」というまに深い眠りへと入った。 ところが、そのほとんど、寝入りばなである。バタンと俺の布団に何かが落ちる音と右手に軽い衝撃を感じた。

目を覚まして?覚まされて? 自分の右手を見ると、それはコニシの寝返りを打ったときに伸ばした左手であった。

なにせ、でかい男だ。狭い部屋に布団を並べて寝ていれば、ちょいと手を伸ばしただけで、隣の布団に手が届くのは理解できる。しかし、しかしだ・・・俺はここで百万回でも2百万回でも、いや1億回書いてもいいのだが、男には興味はない。ホモセクシャルを否定も肯定もしないが、はっきり言います。

俺は男に興味はない。

一瞬ではあったが、触れ合った手と手の感触に怖気が走る。あの恐怖の夜が蘇える。気分を落ち着かせて「寝よう。寝よう」と念仏のごとく唱え、何とか眠りに入ろうとするのだが、寝付けない。「どういうことだ?ナイーブさなどは、持ち合わせていないはず。」

右へ左へ何度も寝返りを打つ。そうして、どれぐらいの時間が経ったのか、右に体を向けるとコニシの寝姿が目に入った。布団は撥ね退けられていた。

俺に尻を向けるようにして、でかい体を、さも窮屈そうに縮め、丸くなって寝ている。シャツとパンツは着けていた。 「裸じゃねぇな」と安心していると・・・・体の上になっている左手が動いた。 その左手が背中側に伸ばされ、シャツとパンツの間にスーと移動した。

親指がパンツのゴム部分に入れられ、ツルリンとまるでゆで卵のカラでも剥くように、いや、それ以上に鮮やかに、パンツを脱ぎ捨てたのだ。目にもとまらぬ早業とはこのこと。コニシの尻が嫌でも目に入った。俺は、慌てて身を反転させ、背中を向けた。

しかし、見てしまったのだ。いや、見えてしまったのだ。

むかし流行ったテレビ番組の「家政婦は見た」ではないが、見なくてもいいものを見てしまったのだ。もう寝られません。寝られませんとも。まさか襲ったりは、しないだろうなんて考えは、吹っ飛んでしまった。

6尺あまりの大男が、下半身丸出しで寝ているのだ。それも、すぐ隣の布団で・・・・・もし、押さえつけられたら、「ハイ、かないません。逃げられません。声も出せ・・・・・」って声なんか出せるか!

出すとしたら、どんな声?「きゃー」か?それとも「あっはーん」・・・でもないだろう。

あとは、狼に襲われそうになった、子羊のごとく背中を向け、ただただ身体を震わせ、目を瞑って夜明けを待っていました。

ただ、この後、2度とコニシとチームを組むことはなかった。なぜなら、これからほどなくして、彼は会社を辞めたからだ。

めでたし、めでたし。



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