【 第 5 話 】 【 闇の中の裸体  】

「おい・・・おい・・」
と小さな声が耳元で聞こえた。

ほとんど寝入りばなである。寝ぼけ眼で見上げるとゴトーが立っていた。 薄明かりの中、腕時計を見ると9時を少し回ったばかり。 寝てから1時間も経っていない。

何事かと訝っていると、ゴトーがかがみ込むようにして、俺の隣の布団を指でさした。隣で寝ているのは、コニシだ。

年齢は40チョイ過ぎ。 身長は180センチを超えている。歳くってる割には、相手がシャチョーであろうが誰であろうが、しゃべりはタメ口、オンリー。また、ずいぶんと変わった男が入ってきたもんだと思っていた。そうは言っても、変わり者が多い会社なんで、別に驚くには値しないのだが。

コニシが入社してから2月ほどしてからだったのか。

現場責任者のゴトーと俺とコニシの3人が初めてチームを組んだ、青森での出張初日の夜。 その日は、めったに無いことに、夜8時過ぎには床に入った。 というかゴトー、地元にいるときは深夜0時過ぎどころか朝まで飲み屋は日常茶飯事なのに、出張に行くとイヤガラセみたいに早く寝る。

というか、イヤガラセそのもので早く寝る。

(屈折したこころの叫び)
ゴトー、俺は、あんたが年上で先輩だから、一応は敬意は払ってるつもりなんだよ、これでも。これで現場が上手くいってるのも、ただただ、オレが現場のことを思い、耐えがたきを耐え、偲びがたきを偲んでるからだって事、分かれっつうの。

なにが現場責任者だよ。現場じゃ人を奴隷みたいに、こき使い、書類一枚書くじゃなし、しち面倒臭いことは全部、 俺に押し付けやがって。 書類関係はお前の仕事だろうが・・・・

ここの現場は、日報やら何やらで11枚も書かなきゃならねぇって、とんでもねえ所だっつうの。夕飯前に書いたのが、3枚、たったの3枚だよ。 まだ8枚も残ってるんだよ。 それを8時過ぎに電気を消されりゃ、 あとは開き直って寝るしかねぇじゃん。
(屈折したこころの叫び、おわり)

俺たちが泊る部屋は2階の10畳ほどの、この宿では一番大きな部屋。そこに、川の字に床をとってある。それでも隣あった布団の間はゆったりとしている。

入口側にコニシ、一番奥がゴトーだ。 季節は初夏、わりとさわやかな夜で、すぐに眠りについた。 それから、まだ1時間と経っていない。

ゴトーは、俺が目を覚ましたのを確認すると、隣の布団をを指差した。 いったい、なんなんだよ。 不満タラタラで指の先に目を向けて、一発で目が覚めた。

なんとコニシは、布団を撥ね退け大の字になって寝ていた。それも、

素っ裸。

一糸まとわぬ姿。これが若い女性なら大喜びといったところだが・・・・・・。 テレビ番組なら100%モザイクのかかるところだ。いやモザイクがかかっていてほしかった。

6尺あまりの大男が、布団からはみ出すように、手足を伸ばして寝ている図など、カネ出すから見てくれと、言われたって

勘弁してくれー!

ゴトーが手首をクイクイと曲げて、俺について来いというようにして部屋の外にでた。

「おい、なんとかしろよ」
「なんとかしろと言われたって・・・」

そりゃ、今まで、アンタの言うことを聞いて、いろいろやってきましたよ。 でもね、この事態は・・・それこそこっちが聞きたいよ。

いったい、どうしろって言うの。 チンポに縄でもつけて、引きずり出せとでも言うのか?

図体のわりには、たいして大きくなかったから、 きっちりと、縄をかけれるれるかどうかは疑問だが・・

俺は寝る前のコニシの姿を思い出しながら
「あいつ、寝る前はシャツとパンツを付けてたけどな」 と言った。

「・・・・どうすんだよ」 ゴトーにしたら珍しく、弱りきった口調で聞いた。
「どうすると言われても・・・・」 俺は大きくため息をつく。

「あとは、飲むしかねぇな」 ゴトーは階下の食堂に向かった。
「それしか、ないか・・・・・・」 俺は、ゴトーの後を追って階段を降りた。

その日はグデングデンに正体がなくなるほどに酔っ払い、と、いきたいところだったが、大して飲めもせず、酔えもせず、2人でビールを3本ほど飲んでから部屋に帰り、コニシの方を見ないようにして布団にもぐりこみ眠りについた。

翌朝、俺が目を覚ましたときには、コニシ は布団をかけてまだ寝ていた。 コニシが目を覚ましたのが分かったのだが、そちらに目を向けることが出来ないでいた

コニシがおもむろに、掛け布団を撥ね退け立ち上がったとき、一瞬ドキッとして冷や汗が流れそうになった。

しか〜し、

いつ下着を身に付けたのか、寝る前のシャツとパンツ姿であった。


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