【 第3話 】 【 さわらぬ神にたたりなし  】

シャチョー、犬を飼っていました。真っ黒い犬で、名前は見たまんまの『クロ』。時々、会社に連れてきては、倉庫の前につないでいました。中型犬というんですか。猟犬の一種かなんかなんでしょうね。血統書つきなのか、雑種なのかは知りませんし、興味もありません。なぜなら私、犬、大嫌いですから。

よく言いますよね。 動物好きに、悪い人はいないって。

その伝で行くと、家の前を通っただけで、いつまででもしつこく、吠えられたひには、蹴り倒したろか!と思うぐらいですから、極悪人といったところでしょうか。

シャチョーが犬の世話をねぇ・・なんて思っていました。 なんのことはない、気が向いた時だけ、連れて歩くというもので、実質、クロの世話してたのは 犬好きの、別会社の従業員に、預けっぱなしというのが、後で分かりましたけど。

それにしても、なんで犬を飼ってたんだろう?ある意味、善人は善人である、というのは認めますけど。


さて、ある日のこと、クロを、愛車キャデラックの後部座席に乗せ、国道から7キロほど山奥の現場にやってきました。

林道兼工事用道路ですから 雨が降ると、その道路が水路となり道のあちこちをえぐり取り、洗濯板のようになってしまうデコボコの砂利道です。途中で、車がすれ違うなんてことになれば、片方がいくつものカーブを バックしなければならない、なんてことも、珍しいことではないような所です。

そんな所に、キャデラックで来る。というのもなんなんだが、仕事場に、犬を連れて来るというのは、まったく不思議なことをするもんだ、と見ていました。 いままで、そんなことは、ただの一度もなかったですから。

クロは、野生の中で走り回るのが嬉しかったのか、それともストレスがたまっていたのか、 山の中を、元気に飛び跳ねていました。シャチョーは、いつものごとく1時間ほど現場にいたでしょうか。 することがなくて、暇になると現場に来ては、引っ掻き回していくのが、いつものことです。

ムラッ気で 同じ仕事を、長くやっていることが、出来ない性格の人です。 現場にいるのが、飽きたのでしょう。気付いたときには、キャデラックは消えていました。

その翌日から、クロが、姿を消しました。

最初に言ったとおり、わたし犬が大嫌いですから、シャチョーが家に連れて帰ったんだろうぐらいで、 別段、気にも止めてませんでした。むしろ、犬が居ないことを喜んでたくらいです。

それから何日後かの話です。
事務所で専務(この人は現場上がりの叩上げ)が、現場に行く前だったですかね、それとも現場から帰ってきてからだったでしょうか。いずれシャチョーの居ないときです。

クロを探すのが大変だったという話をしたんです。その話の中身を聞いて事務所にいた、 全員が、凍りつきました。

あの日、シャチョーはクロを、現場に連れてきたのを、コロッと忘れて車を発進させてしまった。驚いたのはクロです。 このままでは置き去りにされてしまうと思ったんでしょう。後を追いかけ。現場から5キロほど戻ったところで キャデラックに追いつきました。

安心したのもつかの間、勢いあまって車の前に飛び出し、そして全く運の悪いことに、飼い主の車に跳ねられてしまったというわけです。

慌てて、車から降りてきてシャチョーが、クロを見て思ったのは
「クロはもうダメだ」ということ。

シャチョーはクロを抱き上げ、そして、次に起こした行動は・・・・・
近くの杉林の中に、埋めてしまった。というのです。

もうダメだ、ということは、その時点では、まだ死んではいなかったということです。事故現場からは、もう2キロ下れば国道です。そこから、動物病院に連れて行くとなると、30キロから40キロ。車ですから、時間にして1時間足らずのものでしょう。

たとえ、助からないと分かっていても、普通の飼い主であれば、自分の犬を 山の中に、 埋めてしまうなんてことは、考えもしないはずです。

これが、犬ではなくて、人間だったら、業務上過失障害、 もし、死亡したら、業務上過失致死で済むところを、

殺人および死体遺棄で、どうしたって、
実刑は免れません。最悪、死刑です。

専務は、その話を聞き、休みの日に、クロを埋めたという場所を、探したんだそうです。ところが、いくら掘り起こしても、クロの死体が出てこない。

これはシャチョーが勘違いしていると思い、反対側のカーブの所を探してやっと見つけたとのこと。 深く埋めたと言ってたらしいのだが、 これも実際は落ち葉をかけて、クロの体が見えないようにしていた というようなものだったそうです。

そのあと専務がペット霊園で、クロの供養をしたという話でした。 供養した費用が、シャチョーから出なかった、というのは想像に難くありません。

なぜかって妙なところに、異常と思えるほど、ケチでしたから。

実際、仕事で立て替えた費用を、領収書を出してるにも関わらず、 何度も催促して、やっと二ヵ月後に貰うなんてこと日常茶飯事。それも、二、三千円とかいう額。といっても 金がないんじゃなくて、払いたくない。というやつです。

それから程なくして、一山当てようとバブルで儲け、外注費の水増しで貯めた金で買った300坪の土地を売り、濡れ手に泡の商売だ、と始めたアパートを売り、二つあった会社を、ひとつに整理し、

その一環としてリストラと称し、専務を初めとした自分の気に入らない人間、目の上のタンコブ的人間のクビを切り、

経費削減策を、とったにも関わらず、とうとう、一つにした会社の事務所まで、売り払ってしまった。

例の、キャディラックですか?そんなの、とうの昔に売り払ています。

わたし、犬嫌いの極悪人で、なおかつ心霊現象なんて、全く信じない人間ですけど、これは、間違いないくクロのタタリですよ。

そりゃ、タタリますよ。

いくら犬畜生だからって、山の中に生き埋めにされたんじゃ堪りませんわね。でも、まだまだ、たたりは続くと思ってますよ。そうでなきゃ,、浮かばれませんてば。

そうだよな、クロ。


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