【 第13話 】 【 もの凄く、痒い〜ぃの!!  】

隣の家の木を、チェンソーで60cmほどに小さく切り分けた後、いよいよ、自分ちの倒木に手をかけることにした。

隣の家との間には1mほどの用水路が流れている。
道を通るより近いので、そこを跨いでは、何度も往復していた。

「さあ、やるべぇ」と山になった木を前にして、ふと左手を見ると、中指と薬指の付け根に黒く直径2cmほどのシミが出来て、皮がたくれている。

どこで、こすったか、ぶつけたか思い当たる節がなかった。
松ヤニが黒いはずは無いよなぁ、と思いながらも、石けんで手を洗ったがシミは落ちなかった。

「そのうち取れるだろう」とタカをくくっていた。

やはり素手で仕事をするのは危険だなと思い、革手袋をして作業開始。
山となった木の後始末に取り掛かった。

太めの枝はチェンソーで、40cmほどにカット。細い枝は、ナタで切り落とす。

台風一過で、まるで真夏のような日差しが照りつける中での作業。
全身から汗が噴き出る。

クビに巻いたタオルで顔や首を汗を拭きつつ作業を続けた。
汗を吸ったタオルは、まるで水に浸したときのように重くなっている。

何枚かタオルを取り替えた。

倒れた木の幹や枝は、軽トラックで5台分もあった。

家の前を通る人たちに、「大変だったね」と声をかけられ、そのたびに説明することになる。 それが適当な休憩時間ともなった。

日も暮れ、三分の二ほど始末して、家に入ると妙に顔と首がヒリヒリする。

左手の中指と薬指の付け根の黒くなっていた部分に血が乾いて、こびりついていた。 そして、その部分がやけに痒いのだ。

虫さされかとも思ったのだが・・・・・・。

どうも、違う。

しばらく考えて、この猛烈な痒みと、かぶれはウルシでは、なかろうか?
という事に気付いた。

あの黒く指に着いたのは、ウルシの木の樹液だ。
100%のウルシを手に付けてしまったのだ。

どこで付いたのか、全く見当がつかない。
たぶん、隣との往復している間に、ウルシの木に触ってしまったと推測するしかなかった。

最もひどくかぶれたのが、左手の親指と人差し指の付け根で、手首にかけての甲の部分は、まるで半魚人の手のようになっている。 
(半漁人の手を見たことはありませんけどね。

手の厚みも2、3割方アップといったところ。
白魚のような指が、ナマズのように、なっていた。  
(オイオイ、どこが、白魚・・・

翌朝、腫れは、少し引いていたが、顔のヒリヒリ感は残ったままだった。
抗ヒスタミン剤入りの軟膏をたっぷりとつけると、多少は痒みが収まるような気がした。

しかし、汗をかくと、痛痒さがぶり返し、どうにもならない。
とてもじゃないが、片付けどころではないため、休みを取った。

そして、次の日。少し痒みも腫れも引いたので、残りの片付けに取りかかることにした。

その前に、ウルシの木を探さなければならない。

ところが、いくら、探しても見つからない。
漆の木は子供の頃から見慣れているから見分けはつく。

むかし、「漆かき」といって、直径、20cmほどの木に、斜めに何本か傷をつけ、その下に缶をくくりつけて ウルシの樹液を集めていたのを覚えている。

外に遊びに行くときは、「ウルシの木の側には、近寄るな」と何度も注意されたものだった。

後に、漆器の塗師の人と知り合いになり、塗り部屋と呼ばれる所に入れて もらったことがある。

部屋に入った瞬間、全身がチカチカと痛みとも痒みともいえない感覚に襲われたのを思い出した。

その後、皮膚の弱いところ、ようするに股間が半年ほど、いつも痒かったのを経験している。

高校時代、雨で全身びしょ濡れになり友人のジーパンを借りたことがあった。

その翌日から、股間に猛烈な痒みを感じ、ひどい目に遭った。
そのジーパンにはインキンが住み着いていたようだった。

あのころ、仲間内では、インキンがブームであった。(ブーム?

タムシチンキという薬が利くというので、インキンを移した友人に薬局で買わせた。 金は当然払ったが、自分で「タムシチンキ下さい」というには、当時の私は、ナイーブ過ぎた。

「俺はイヤだ」とその友人はゴネたが、
「インキンを移したのは、お前だ」
といって、どこまでも買いに行かせた。
「俺、インキンなんか持ってない」
と言い張っていたが、
実際は、どうだったのか?真相は今でも、闇のなかである。男の股間を確かめる趣味は、当時も今も、 持ち合わせていませんからね。

このタムシチンキ、傷になった所に塗りつけると、猛烈に痛い。

片手に薬を塗るハケ(薬にフタに付いている)、そしてもう片方の手にはウチワを持ち、患部に薬を塗った瞬間 ウチワで猛烈にあおぐ。そうしないと、七転八倒の苦しみを味わうこと事になる。

あおげば、少しはマシぐらいのものだったが、傷口に「キンカン」を塗ると思ってもらえば、想像が付くと思う。

それ以来、ジーパンを履く気にはならない。トラウマというやつである。

あのときほどでは、なかったのだが、この塗り部屋での体験にも往生した。

ただし、わたしは、比較的、ウルシには強いほうである。
弱い人になると、ウルシの木の下を通っただけで、かぶれる人もいるぐらいだ。

ウルシの木がが見つからない、(見つけれない?)ということは、木自体は、 大きくはないはず。

若いウルシの木は、枝の部分が赤くなっているので見分けが付けやすい。
ところが、いくら探しても、見つからないのだ。

見つからないんじゃ、しょうがない。
いつまでも、それに関わっているわけにもいかない。残った分の片づけに掛かる。革手袋をかけ、作業再開。

おとといと同じで、炎天下の中での仕事。
タオルを変え変え、噴水のように汗を吹きだしながらの作業となった。

夕方近くになって、片づけは終わったものの、痒みは、昨日以上に、ひどくなっている。

左手の指の付け根のカブレは、前日以上に広がり、血がにじんでいた。
顔のヒリヒリ感も、朝よりも強くなっていた。

鏡を見ると、お岩さんのように、顔の右半分以上が赤くなり、首筋まで続いている。ウルシの樹液の付いた タオルで顔を拭いたためだったことは明白だった。

病院に行くかどうかは1晩、様子を見て決めることにした。前の日より、悪くなっているの確かだから、 行かざる得ないのは分かっていたのだが・・・。

翌朝、鏡に写るおのれの顔を見て、「これは、ひどい。」と思うほど、顔の皮がただれたように 赤くなっている。

とてもじゃないが、人前に出れるような顔じゃない。(もともとだって・・・
もはや病院に、行くしかない。

ぼくは、入院するような病気はしたことがない。
体が丈夫で医者に掛かったことがないというのが自慢だ。
というか、これしか自慢出来るものがないのだが・・・・。

病院に行き、「ウルシにかぶれたようだ」と医者に告げると
「台風の、後かたづけをしてウルシにかぶれる人は多い」と言う。
どうも、ぼくだけでは、ないようだったので、なんとなく安心した。

注射を打たれ、飲み薬を4日分と塗り薬をもらう。医者によると、カブレるという症状の中で、 ウルシが最もひどい。ということを教えてくれた。

明日になっても、症状の改善が見られなかったら、毎日でも来いといわれたのだが、 日に日に回復していったので、その後、病院には行かなかった。

しかし、軽くなったとはいえ、その後もしばらくは、指の付け根が時々痒くなって往生すること となった。

よくよく考えてみると、ウルシの樹液がついた革手袋を、2回目の作業の時につけたため、 余計に悪化したようだった。

台風一過、その後、ぼくには台風二禍と、あいなりました。

【2004/10/07】 ▲秋田に生まれし運命とて】  【←前へ】  【次へ→ ↑ページの先頭へ!